文字起こしのスキルは、社会に役立つ

文字起こしのスキルは、社会に役立つ

私が文字起こし(テープ起こし)という仕事を初めて知ったのは、今から約20年前のことだ。
編集部に所属していたころ、取材時に録音した音声を持ち帰っては、イヤホンで聞きながら原稿に起こしていた。
文字数が決まっているので、約30分の取材でも使えるのはほんの一部。ただ、取材時は話を引き出すことに集中しており、ほとんどまともなメモは取れないので、文字起こしという作業をしながら、その時の空気感を思い出し原稿を書く。ヒトの記憶は曖昧で、こうだと思っていたことでも、音声を聞くとまったく違う意味だったりする。また、印象が薄く何とかネタを引き出そうと、隅から隅まで何度も聞き返すこともあった。
今でも、取材の音声は起こしていただいたものに編集していくことが多いし、時間があれば自分でも聞き直すことにしている。いずれにしても『記録を残す』ことは、必要であるし重要だ。

実力を持っている人は引っ張りだこ

在宅で仕事をしたい人を支援するNPO法人を立ち上げたときに、在宅可能な職種として、文字起こし(テープ起こし)の名前が出た。仕事の受注方法について調べたところ、高いスキルを身につけた人は、専門会社から引っ張りだこであることもわかってきた。
NPOで初心者向けの相談を受けるときに「仕事の探し方」について良く質問されるが、オコシスト(文字起こしを生業としている人)の場合、全国の専門会社に登録ができれば、仕事は探さずとも連絡がくる。大容量のデータが送れるインターネット環境さえあれば、日本はもちろん海外からでも仕事はできるそうだ。
ただし、これは専門会社のトライアルに合格し、トレーニングを積んだ人の話。じゃあ、私はムリだとあきらめる人もいるが、学生時代に国語の勉強が好きで、今も時事問題やニュースに関心があり、検索しながら文言を調べることが嫌でない人なら、ぜひトライして欲しい。専門会社は、毎月のように登録者(優秀な)を募集しているし、チャンスの窓は開いている。

ボランティア活動にも副業にも役立つスキル

テーマである「文字起こしスキルは、社会に役立つスキルか」については、私は文字起こしほど、ボランティア精神溢れる仕事はないと思っている。身につければ仕事の効率アップになるし、在宅ワーカーとしても自立もできるし、自分のためになると思われがちだが、最初に触れたように、取材などの原稿は文字制限があるから、話した通りには掲載されない。
もちろんオコシストが、どんなに巧みに話を拾っても、ライターや編集により味付けされてしまう。文字起こしされた生原稿は、世の中にそのまま出ることは決してないといえよう。反対に、専門会社から依頼のある会議や講演、裁判などの音声は、文字化され保管されることで意味を持つ場合も多い。いずれにしても、自分というよりは世の中に貢献するという意味合いが強い仕事のように思う。

もちろんプロのオコシストとなれば報酬もいただけるし、自分のためといえばその通りであるが、音声を起こしているときは、常に「文字化を待っている見えない人たち」のことを考え仕事をしなければならない。「自分が社会に貢献したい」という気持ちで、スキルを身につけ、日々向上させていくことが強く求められる職種なのではないだろうか。

執筆:一般社団法人文字起こし活用推進協議会 代表理事 宮田志保
大学までを金沢で過ごし、就職のため上京。電機部品メーカーに就職し、販売促進課にて製品の広報業務に携わる。編集者の夢をあきらめきれず広告代理店に転職。情報誌編集部に所属し、企画、編集からライティング、DTPまで担当。徹夜の毎日を送る。出産のため退社。個人事業主として仕事復帰。2003年9月在宅で働く女性を支援する「特定非営利活動法人 フラウネッツ」を設立。2007年7月株式会社エフスタイルを設立。株式会社オールアバウト「SOHO・在宅ワーク」ガイド。厚生労働省在宅ワーク支援事業検討委員、同事業講師などを歴任。

特定非営利活動法人フラウネッツ
株式会社エフスタイル
オールアバウト「SOHO・在宅ワーク」